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マウスピース矯正とは、透明なマウスピースを装着・交換しながら歯列矯正をしていく治療法で、ワイヤー矯正と違い矯正していることが目立ちにくいことから、若い世代を中心に注目を集めています。
そんなマウスピース矯正をめぐり、金銭トラブルや健康被害が発生していることをご存じでしょうか?
そこでこの記事では、マウスピースを使った矯正治療が「実質無料」などと勧誘され、高額なローン契約を結んだあと、施術が受けられないだけなく金銭トラブルや健康被害が発生しているとして、歯科医師や運営会社幹部らを相手に損害賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こした事例をご紹介します。
デンタルオフィスXをめぐる集団訴訟とは
2023年1月、歯科医院を運営する医療法人デンタルオフィスXやその運営会社の株式会社THE GRANSHIELD(ザ・グランシールド)など3社と経営幹部ら18人を相手取り、約2億6200万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしました。
原告である被害者には高額なローン残債があるだけでなく、嚙み合わせが悪くなったり抜歯されたまま放置されたりなど、健康被害も出ているといいます。
では、どのような経緯でデンタルオフィスXの歯科矯正トラブルが発生したのでしょうか。
時系列に沿って、詳しく解説していきます。
2019年4月:デンタルオフィスX歯科矯正モニター制度を実施
デンタルオフィスXは開院当初、売り上げが上がらず苦戦していたといいます。
そこで、『治療過程をSNSでの宣伝に協力すれば治療費が返金される』という“実質無料のモニター制度“を考案、実施しました。
“実質無料のモニター制度“の内訳は、矯正治療にかかる費用を契約者本人がローンを組み毎月返済しますが、同額を送金アプリでデンタルオフィスX側から受け取るというものでした。
デンタルオフィスXは、利用者による口コミだけでなく、インフルエンサーとして知名度がある人物にPRを依頼し、インフルエンサー経由で矯正治療とモニター契約を結んだ場合に成功報酬が支払われる、いわゆるアフィリエイトで広く勧誘を行っていたということです。
また、矯正治療を担当する歯科医師は、年間1000例以上の症例を扱った医師だけが受賞できるレッドダイヤモンドの称号をもつ、歯科矯正界では有名な歯科医が治療を担当すると宣伝していたといいます。
ですが実際には、治療に関わるとしていた看板医師は2021年の初め頃には、デンタルオフィスXの事業から手を引いており、その後も看板医師の名を用いて勧誘を行っていたことが発覚しています。
2022年3月:患者への返金が遅延し始める
2022年3月、毎月送金アプリを介して行われていた入金が突然停止しました。
その直後、デンタルオフィスXから送金業務の委託業務を受けているというアーサーから、「ロシアウクライナ侵攻で海外口座の資金が動かせなくなったため」と送金停止の理由を説明する通知が届いたといいます。
その後、デンタルオフィスXの運営会社である株式会社ザ・グランシールドの顧問弁護士から、「モニター契約の際に締結された契約書は偽造されたものだったため、返金は無効としてモデル報酬は支払えない」などと記載された書面が届いたということです。
2023年1月:患者153名が損害賠償を求める集団訴訟を起こす
そして2023年1月、153人の被害者がデンタルオフィスXや運営会社のザ・グランシールドなどを相手取り、集団訴訟を起こすという事態に発展しました。
実際には、少なくとも1,400人以上が契約しているとみられ、今回訴訟を起こした被害者は氷山の一角であったと考えられます。
原告である被害者らには、高額なローンが残されているだけでなく、かみ合わせが悪くなったり顎に痛みがあったりなど、健康被害も深刻だといいます。
原告団は、刑事告訴の可能性も示唆し、徹底的に戦う姿勢を見せています。
ザ・グランシールドの社債トラブルとは
デンタルオフィスXの運営会社である株式会社THE GRANSHIELDは、歯科矯正トラブルが明るみになったことで、投資トラブルを起こしていたことも同時に発覚しました。
ザ・グランシールドは、投資会社のトラステール株式会社の社債購入を勧誘し、800人以上から約60億円を騙し取っていたということです。
ザ・グランシールドは、トラステール社債を売りつける際、元本保証で年利20%、五年満期で元本を全額返金するなどと謳い、勧誘を行っていたといます。
デンタルオフィスXの歯科矯正トラブルが発覚したことから、ザ・グランシールドはトラステール社債の販売ができなくなり、トラステール株式会社は資金繰りが悪化し、2023年10月3日付で破産手続きを開始したということです。
株式会社ザ・グランシールドは、社債の勧誘を行っていましたが、金融商品取引法に基づく金融庁の認可を受けずに金融商品取引業を行っていた金融商品取引法違反の疑いだけでなく、特定の金融機関でないにもかかわらず出資を募る出資法違反の疑いがあるため、今後はそれらの罪も問われることになるのではないかと考えられます。
また、デンタルオフィスXでモニター会員から集めた資金でザ・グランシールドが資産運用を行い、運用益を返金に充てることで実質無料になる、という算段だったとみられています。
ザ・グランシールドをめぐる事件のポイントを解説
デンタルオフィスXでの歯科矯正トラブルをはじめ、運営会社の株式会社ザ・グランシールドをめぐり、歯科矯正だけでなく投資トラブルまで抱えていたことが分かりました。
ですがデンタルオフィスXは、有名な歯科医師が担当していると謳っていたり、有名なインフルエンサーが宣伝していたりなど、詐欺だと見極めることが非常に難しいものであったと容易に想像がつきます。
今後もし同様の事件が発生した場合、消費者が注意するべき点について解説します。
インフルエンサーのPR=安全ではない
近年、人気や知名度を持つインフルエンサーが行ったPRから詐欺被害に巻き込まれるという事例が相次いで発生しています。
インフルエンサー自身、PRしている案件が詐欺だと知らずに宣伝してしまっているケースが非常に多く、被害拡大に繋がりやすくなってしまいます。
そのため、消費者側も今一度「インフルエンサーのPR=必ずしも安全ではない」という認識を持ち、情報の精査や怪しい点がないかを確認するようにしてください。
モニター商法には要注意
モニター商法とは、SNSなどでPRをすれば商品代金やサービス利用料が無料になるという勧誘方法で、モニター商法自体は怪しいものではありません。
ですが、国民生活センターによりますと、「商品のPRをしているのにキャッシュバックが振り込まれない」「費用はかからないと聞いていたのに、後から請求を受けた」など、勧誘時の説明とは異なる利用料の請求などを受けたというトラブルが多発しているといいます。
モニター商法では、今回の歯科矯正トラブルの事例のように、キャッシュバックが入金されず、毎月の支払いだけ続くトラブルが多いため、「キャッシュバックで実質無料」や「自己負担なし」などと勧誘されても安易に契約しないよう、くれぐれもご注意ください。
デンタルオフィスXの歯科矯正詐欺まとめ
この記事では、デンタルオフィスXやその運営会社ザ・グランシールドをめぐる歯科矯正トラブルについて解説しました。
詐欺は高齢者世代が狙われるもの、と考える方も多いと思いますが、近年では若い世代を狙った詐欺も非常に増えています。
投資話などに限らず、歯科矯正や美容エステなどのモニター商法などもあわせて、おいしい話が合った場合には裏があると考え、安易に契約しないようくれぐれもご注意ください。
今回、デンタルオフィスXの患者ら153人が医師や運営会社幹部らを相手に損害賠償を求める集団訴訟を起こしましたが、近く100人以上の規模で追加提訴することが明らかになりました。
また、訴訟の行方が明らかになり次第、お伝えしていきます。